【ヒロアカ】名前のない関係の終わらせ方【爆豪勝己】
第5章 3
透は顔を上げられない。
「……最近…」
黙って待つ。
「よく吐いちゃって…」
「吐くのが苦しいし、食道炎になるから、あんまり食べない。」
手が離れた。そのまま後ろに尻もちをつくように座り込み、両手で顔を覆った。
「…………なんで。」
指の隙間から漏れる声が掠れている。
「嫌なこと思い出しちゃっただけだよ。」
心配させまいと優しく笑う。
爆豪は顔を覆っていた手を降ろす。赤く充血した目。泣いてはいない——けれど、限りなくその手前にいる顔だった。
静寂が落ちた。時計の秒針だけが動いている。
「泣かないでよ…大丈夫だから。時々こうなるの。」
泣いてねぇ、と言い返す声に力がない。ぐいっと袖で目元を拭って。
「時々っていつからだ。」
「…高校三年生。」
息が詰まる。高校三年——約8年前。そんな長い間、ずっと。
言葉が出なかった。何か気の利いたことも、怒りの言葉も。何も。
「大丈夫だって、ね?」
透が、爆豪の肩に手を置く。
その手首を掴む。冷たい。細い。
掴んだ手首を離さない。親指が透の脈に触れている。弱い。
「爆豪くん…手、痛い…。」
はっと力を緩め——だが離しはしない。そのまま指を滑らせて、手のひらを包むように握った。
冷えた透と、じんわり熱い爆豪の掌。その温度差が際立つ夜だった。