【ヒロアカ】名前のない関係の終わらせ方【爆豪勝己】
第5章 3
轟が選んだのは路地裏の小さな和食屋だった。カウンター席と半個室の小上がり、落ち着いた照明。こういう店をきっちりリサーチしてくるあたり、不器用なりに本気だということが窺える。
メニューを開いて。
「透、魚は好きか。」
「魚好きだよ。あと、蕎麦も。」
轟の好物を思い出し、答える。
少し目を丸くして。
「——蕎麦は俺の好物だろ。覚えてたのか。」
「うん、私も蕎麦まあまあ好きだから、覚えてた。」
さらりと言う。
一瞬黙って、メニューに視線を戻す。耳の先がうっすら赤くなっていた。
「……刺身の盛り合わせと、鯛のあら炊き。あと蕎麦、二人前でいいか。」
「うん。全部好き。」
注文を終えると、静かな店内に料理の音だけが響く。出汁の香りが漂ってきた。
轟がお茶を一口すすり、微笑む。
「今日の連携、良かったな。」
「轟くんいなかったら危なかった。私なんかまだまだだよ。」
首を横に振る。
「最初の攻撃が効かなかった時、一瞬も躊躇わず次の手に切り替えただろ。あれは場数踏んでないとできない。——謙遜しなくていい。」
「ははは…」
透は照れを誤魔化すように笑う。
料理が運ばれてきた。見た目も美しい皿が並ぶ。二人はしばらく食事を楽しんだ——轟は蕎麦を前にした途端に饒舌になり、蕎麦粉の割合について語り始めて透に笑われていた。
湯呑みに口付けながら、透が呟く。
「今日、来てよかった。」
轟は箸を置いて、まっすぐ透を見た。
「——俺もだ。」