【ヒロアカ】名前のない関係の終わらせ方【爆豪勝己】
第7章 5
轟と別れた透の足は、自室ではなく、無意識に爆豪のマンションへと向かっていた。
頬を撫でる夜風が、涙の跡を冷たく冷やす。胸の奥に灯った熱が消えないうちに、伝えなければならないと思った。
「嘘だけはつくな。自分にも、周りにも」
轟の言葉が、呪文のように頭の中で繰り返される。
爆豪に会って、何を言えばいいのかはまだまとまらない。けれど、ただの「利害の一致」という言葉で、彼が差し伸べてくれた手の温もりを汚し続けることだけは、もうしたくなかった。
マンションまで、あと数ブロック。鼓動が早まり、肺が焼けるように熱い。
だが、運命はあまりにも無慈悲だった。
決意を嘲笑うかのように、通信機が悲鳴を上げる。
「――緊急配備! 廃工場地区に、指定ヴィラン『チーター』が出現!」
心臓が跳ねる。かつて自分が捕らえた因縁の相手だ。
マンションが見える角で、透は一瞬だけ足を止めた。そして唇を噛み、反対方向へと駆け出した。
ヒーローとしての義務。それが、今この瞬間の恋心よりも優先される。その残酷なまでの正しさが、彼女の運命を狂わせる引き金となった。
繁華街から、鼓膜を劈くような爆音と悲鳴が上がる。
「――見つけたぞ、水使いミラージュ。今度は逃がさねえ」
着地した先で見たのは、三ヶ月前に捕らえたはずの脱獄犯だった。超高速移動を得意とするその男は、透の弱点を知り尽くしていた。
誘導された先は、入り組んだ廃墟の屋上。水場はなく、初秋の乾いた空気が大気中の水分を操る彼女の自由を奪う。
「ハッ、水がなきゃ何もできねえか!」
目にも止まらぬ爪の連撃。必死に大気中の水分で盾を作ろうにも、水蒸気のように薄い膜にしかならない。透の細い腕が裂け、血が飛ぶ。
二週間の静養を経てもなお、精神的な摩耗で削れた身体は思うように動かない。防戦一方の中、脇腹を鋭い爪が切り裂いた。
「っ……あ……!」
鮮血が舞う。受け身も取れずにコンクリートに叩きつけられた透に、死の予感が背筋を這い上がった。
「死ねよ、ヒーロー!」