第1章 霧の屋敷の黒い旋律
引き取られて二年が経った頃には、ニナの暮らしにも少し余裕ができてきた。
小さい弟たちの世話はまだまだ手がかかったが、その成長は日々彼女を楽にさせていた。
なかでもキルアの成長には、家族中が目を見張るものがあった。
5歳になる頃、キルアはすでにピアノの前に座ることを好むようになっていた。
最初はただ鍵盤を叩いて遊んでいただけだったのに、ある日突然、指先で和音を見つけ出した。
ある朝、霧の濃い居間に軽やかな音が響き始めた。
トン、トン……ラララ……
小さな手が、まるで蝶が舞うように鍵盤の上を跳ねる。
遊びのつもりで始めたはずの音が、次第に形を成していく。
短いメロディが転がるように流れ、明るく、喜びに満ちた旋律が部屋を満たした。
軽やかで、透明感があり、聞いているだけで心がふわりと浮かぶような音楽。
ニナは洗い物の手を止め、息を飲んだ。
キルアは目を輝かせ、時折笑い声を上げながら指を動かしている。
まるで鍵盤が彼の遊び相手であるかのように、自然に和音を重ね、簡単な変奏を加えていく。
昨日までただの幼児の戯れだった音が、今日はすでに「曲」の形を帯び始めていた。
「キルア……すごいわ……」
ニナは思わず呟いた。
キキョウが居間に現れ、目を丸くした。
当主シルバも、珍しくじっくり耳を傾ける。
「これは……」
キキョウは口元を綻ばせる。
「まるで神様が贈り物をしてくれたみたい。
キルア、もっと弾いてごらんなさい」
キルアは無邪気に頷き、再び鍵盤に指を置いた。