第1章 霧の屋敷の黒い旋律
ニナは急いで汲んできたばかりの井戸水を火にかける。
「イルミ様……お待たせしました」
小さく頭を下げると、イルミは視線をこちらに向けたが、すぐに興味を失ったように目を逸らした。
彼はパンのかけらとチーズ、それからニナの運んだティーカップをすこし口にすると立ち上がって、どこかへ行ってしまった。
ニナが床に落ちたパン屑を拾っていると、背中のカルトがテーブルを蹴って木のスプーンが落ち、キルアの足元に転がる。
それを拾おうとしたキルアはよろけ、ニナは咄嗟に体を預けて支えた。
背中のカルトがびっくりして泣き出し、ニナは片手で背中をさすり、もう片手で床を拭き始めた。
「ニナ、まだ終わっていないのかしら」
キキョウの甲高い声が響く。
「はい、申し訳ございません。すぐに取り掛かります」
窓の外では、霧がますます濃くなり、遠くからはかすかに、また昨夜と同じ旋律が、どこか執拗に繰り返されていた。