第3章 傲慢な救済
医務室のベッドに座らされ、私は自分の擦りむいた腕をぼんやりと眺めていた。
巨人の指先が掠めただけの、ほんの数センチの傷。
けれど、目の前で救急箱を乱暴に開けている上司の背中からは、かつてないほどの威圧感が漂っている。
「……あの、兵長。これくらいなら自分で」
「黙ってろ」
低く、地を這うような声。私は思わず言葉を飲み込んだ。
「……っ、痛いです」
「痛ぇなら、自分がどれだけ無茶をしたか体に刻み込んでおけ。次は腕一本じゃ済まねぇぞ」
乱暴な言葉とは裏腹に、傷口を拭う手つきには迷いがない。そのギャップが余計に腹立たしく、私は思わず顔を背けた。
「……別に、腕の一本くらい。死ぬわけじゃありません」
「あぁ?」
掴まれていた腕に、ぐい、と力がこもる。
「死ななきゃいいと思ってんのか。お前、自分が死に急ぐことで誰が尻拭いをするか分かってんのか。……俺の目の届く範囲で勝手に死ぬことは絶対に認めん」
「……兵長がどう思おうと、私には関係ありません。どうせ、誰かが死ぬときは死ぬんです。……兵長だって、いつかは」
震える声を隠すように、精一杯の拒絶をぶつける。
だが、彼は動じない。消毒を終え、包帯を巻く手際だけが静かな医務室に響く。
「俺がいつか死ぬだと? ……笑わせるな」
彼は最後に包帯をきつく結び終えると、ようやく私の瞳を真っ向から射抜いた。