第7章 第57回壁外調査――崩壊
エレンと女型の巨人が死闘を繰り広げ、そしてエレンが連れ去られた後。
私はただ、ペトラ先輩の亡骸のそばで、折れた刃を握りしめたまま立ち尽くしていた。
色彩を欠いていたはずの世界が、今は仲間の血で赤く染まりすぎていて、吐き気がした。
「……ノア」
低く、聞き間違えるはずのない声がした。
追いついてきた兵長が、凄惨な現場に一瞬だけ目を伏せる。
私は叫ぼうとした。
なぜ助けてくれなかったのか、なぜ信じろと言ったのか。
けれど、声は掠れて出なかった。
「……お前は少し、休んでいろ」
兵長の手が、私の震える肩を抱き寄せた。
逆らう気力も残っていない私の身体を、彼は優しく、けれど拒絶を許さない力で掬い上げる。
そのまま高い枝の上へと運ばれ、背中を預けられた。
「……ここで、待ってろ。エレンは俺が連れ戻す」
兵長の背中が、霞んで見える。
首にかけたネックレスが、今は石のように重く、私の肌を冷たく焼き切ろうとしていた。