第4章 春を待つ足音
結局、その日の訓練は大きな混乱もなく終わった。
腕の傷をかばうような不自然な動きは、自分でも嫌になるほど生きようとする本能が透けて見えて、それがどうしようもなく居心地が悪かった。
日が沈みかけ、赤く染まった訓練場の隅。
「……さて、掃除して帰るか。ノア、お前は指先動かさなくていいから、適当に見張ってろ」
オルオ先輩が、わざとらしく自分の指をパキパキと鳴らしながら言う。
「……いえ、やります。これくらい」
「いいから。あんたがまた傷口開かせたら、兵長に何を言われるか分かったもんじゃないわ」
ペトラ先輩に苦笑交じりに制され、私は仕方なく、熱の引いていく空気の中に立ち尽くした。
ふと、兵舎の二階にある窓を見上げる。
そこには、影のように佇む一人の男の姿があった。
距離があって表情までは分からない。けれど、あの鋭い眼差しが、約束通りに私を見張っていることだけは、肌を刺すような緊張感で伝わってきた。
冬の終わり。
冷たい風が吹き抜ける中、私の背中に落ちた最強の影は、昨日よりも少しだけ色濃く、そして重くなっていた。