第1章 シークレットメロディ
そこそこ立派な一軒家が、そこそこの数入りそうな空間は、深夜帯にも関わらず制服を着た職員らしき人が行き交ってた。
すごいな、大変だろうな、眠くないのかな。他人事のようなどうでもいい思考に拍車がかかる前に太刀川さんに名前を呼ばれた。
「コーヒー飲めたよな?」
「はい、ありがとうございます」
「もうすぐアイツも来るからちょい待ってろ」
「……わかりました」
直に持つにはまだ熱すぎる缶を膝の上に。太刀川さんの言葉に一瞬反応したけど、やっぱりアイツの手引きだったのか、が本音だ。ここに連れてこられた時点でなんとなく予感はしてた。
「えらい素直だな。今日は喚かねーの?」
「あの人のために無駄な体力使いたくないんで」
無駄な体力も無駄な思考も大袈裟な表情も。剣幕を振りかざしてまくし立てでもしたら、太刀川さんじゃないけどそれこそシワが増える。そんなの真っ平ごめんだ。
「お前さ、そこまで毛嫌いするって、なんか嫌なことされたわけ?」
「それ本気で聞いてます?数ヶ月も纏わりつかれたらそりゃ嫌でしょ」
「あー、まぁ、そうか、そうだわな」
「そうですよ」
すっとぼけた質問をしてくる太刀川さんを睨むように見据えて、そろそろ適温になってきた缶コーヒーのプルタブを引いた。
まぁいいや。いつものように右から左で首を縦に振らなければ済むこと。そうすればいずれ向こうも諦めてくれるはず。
苦めのコーヒーを一口飲みながら意思を再確認したタイミングで、太刀川さんがあたし以外の誰かを視界に映した。背筋が伸びたのは無意識だ。
近づいてくる気配に連動するように、眉間のシワが深くなる。落ちていた視線の先、相手の足元が見えて顔を上げると思った通り、そこにいたのは、慣れたくないのに、とうの昔に見慣れてしまった胡散臭い笑顔。