第1章 シークレットメロディ
太刀川さんの歩みに乗じて伝わる振動が妙に怖くて、手持ち無沙汰な自分の手は、気づけば遠慮がちに彼の服を握りしめていた。そうして思う。
「おんぶのほうがまだよかった」
「我慢しろよ」
「どこ行くんですか」
「あのでっかい建物の中」
「なんで」
「ないしょ」
「太刀川さん、」
「んー」
「……ほんとに心配してくれてたんですね」
膝の裏の手のひらと背中にまわった筋肉質な硬い腕と。
あたしが掴んだ服の下、胸板から聞こえたそれに今更ながら反応する。
「読むなよ恥ずかしい」
「ご迷惑おかけしてすみませんでした」
何もなくて良かった。そんな彼の声が、あれだけ触れたくなかった他人の本音が、なんでか今日は嫌じゃなかった。
「太刀川さん!ほんともう降ろして!歩けるから!」
「そんな遠慮するなよ」
「遠慮じゃないです嫌なんです!」
だってこんな人の好奇だか物珍しさだかの視線を一身に浴びて耐えろと言うほうが無理な話しだ。
ボーダーの本拠地。馬鹿でかい建物の中へずんずんと入っていく太刀川さんを、さっきからすれ違う人すれ違う人みんながガン見してくる。
笑われたり二度見されたり、声をかけられたり、その度に表情が強張って俯くしかないあたしの心情を早急に汲んでほしい。
「お願いほんとに無理!恥ずかし、……わ!」
「はいとーちゃく」
無駄に広いロビーのような場所、ソファーとテーブルがいくつも並んだその一角に、ずり落ちる体勢で降ろされて尾てい骨に小さな衝撃をくらった。
すぐ傍にある自販機に向かった太刀川さんの背中を目で追ってから、視線は好奇心のむくままそこらじゅうを映す。
遠くから見ても際立つ大きさの防衛機関はその内部もやっぱり広い。端から端まで何十?いや何百メートルあるんだこれ。