第1章 シークレットメロディ
途端に血の気が引いて息を飲んだ。落ち着けあたし。毎日馬鹿みたいにぽんぽんぽんぽんサイレンが鳴ってるわけじゃない。今だってほら、静まり返ったこの場所で何かが出てくる気配など微塵もないじゃないか。
入った瞬間襲われるなんて、そんな都合の良いマンガみたいな展開にはなら…………。
「え、」
自分で自分の耳を疑った。猛スピードでフル稼働する思考を遮った静電気のような音はあたしの背後から。
振り返ってその正体を確認したいのに、見てはいけない、早く逃げろと本能が警告する。
それを払拭するみたいに動かした体はかくかくとまるでロボットのような動作。
危機察知能力は人間よりも動物のほうが優れていると聞いたことがある。現に腕の中のこの子はびくりと体を強張らせて小さな声で頻りに威嚇をしていた。
「なに、これ」
バチバチッと不穏な音と共に、何もない空間から球体が浮かび上がってみるみる大きくなっていく。
サイレンが遠くの方で鳴った気がしたけど、恐怖とパニックのせいで早さを増す心臓の音と、不規則に乱れる呼吸の音しかあたしの耳は拾ってくれなかった。
丸い穴の中心部。今まさにこちら側へ侵入を果たそうとするなんとも言い難い異世界の兵器。
ネットでしか見たことのなかったそれが、あたしの目の前、僅か数十メートル先にその全貌を表して、キョロキョロと辺りを見回すような動きをした。
本当の恐怖を味わった時って、一言も声が出ないんだなと思った。立ちすくむ足は震えて、その振動で体も震える。
どこもかしこも痛いくらい筋肉が強張ってるのが分かって、逃げなきゃいけないのに1ミリも動かせない。そんなあたしを見つけることなんていとも容易いんだろう。
他には目もくれず、一心不乱につめ寄る白い塊に腹を括った。面白いことに括った途端、ふっと力が抜けて膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込んでしまう。
腕の中のちいさな存在に巻き込んでごめん、助けるどころか奪ってごめん。声に出せない代わり、心中で謝罪した。
目と鼻の先の距離でぎゅっと瞼を閉じて抱え直すように腕の力を少しだけ込めた時、耳をつんざくような物凄い音に体が跳ねる。