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PRISM LINE【ワールドトリガー】

第1章 シークレットメロディ



「怪我、してるの?」


毛並みが黒いから見えなかった。携帯のライトを照らして良く見てみたいところだけど、きっとびっくりする。限りなく目を凝らしてじっと見てみると、ちょうど横っ腹のあたりに切られたみたいな傷跡があった。


「あ、だめ!ちょっとまって!」


そっと慎重に、怖がらせないよう焦る気持ちをギリギリまで抑えて伸ばした手は空を切る。
あと少しで触れられた体はあたしの横をすり抜けて走り去ろうとするけど、ここまで酷いと素人でも分かる。放っておいたらヤバいってことぐらい。

傷口を庇うように、時折ふらつきながら駆けるその後ろ姿を追って、どう捕まえようか頭を回転させるも、意外に逃げ足が速くて忽ち息が切れてしまう。

昨日はスニーカーだったのに、なんでこんな時に限ってヒールなのよ。踏み込むたび、つま先がズキズキ痛いけど今はそれどころじゃない。
走って追いつきそうになって、それを察したみたいに右へ左へ進路を変えてまた離されて。

何度か繰り返すうちに突き当たりのフェンスの下を潜った先で、体力が尽きたのかうずくまった姿を捉えた。

どこか人間が入れるくらいの隙間はないのか。息が上がったまま、それでも視線だけは必死に動かして周囲を見渡す。
数十メートルに渡って張り巡らされた右の端の方に、通れるか通れないかぐらいの穴を見つけて無理やり体をねじ込ませた。


「だいじょうぶ、だから。怖い思いさせてごめんね」


近づいてしゃがみこむ。もう動く気力もない子猫を抱き上げて傷口を避けるように腕の中へ。
怯えて唸る声は弱々しく、一刻も早く病院へ連れて行こうとして足が止まった。


あ、やば。なりふり構わずこの子だけしか見てなかったから気づかなかった。
荒かった息が正常に戻っていくのと同じタイミングで思考も冷静に動き出してくれたから、自分が今どこにいるのかも瞬時に理解できた。


このフェンスは警戒区域との境目で、あたしは入っちゃいけない場所に入ってしまったと言うことだ。



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