第1章 シークレットメロディ
要するにそんなもんだ。
もう自分が何を考えてるかすら曖昧だけど、そんなもんなんだ。他人が知ってるからと言ってびびることもないし何かあるわけでもない。
堂々としてればいい。あたしには全く関係ないしつべこべ言われる筋合いもない。
と、自分で自分を納得させてみれば一時的に楽にはなる、すっきりはする。だけど完全に腹に落ちるわけがないのも、同じ思考が3度目あたりを巡っている頃に漸く気づいた。
一番気にしているのは自分自身だってことも、あの憎らしい笑顔に、歯を食いしばってでも耐えてちゃんと聞いておけば良かったってことも。
やばい、またハマってる。もう何度目かも分からない思考の海での遊泳は、自力で上がってこなけりゃどんどん深さを増すような気さえした。
寒いから早く帰ろう。
こんな街灯の少ない、暗い住宅地を俯いて歩いているからいけないんだと、顔を上げて視線を無理やり遠くに飛ばしながら速度を上げる。
明日は午前中が休講で午後から1コマしかないから、もう日付けが変わる寸前だけどゆっくりお風呂に入れるのは嬉しい。
温度もいつもよりちょっとだけ温めにして、読みかけだった本でも持って入ろうか。
細やかな至福に口元が緩みそうになった時、投げてた視線の先に黒い物体が映った。小さな塊が道の脇に転がるように移動してぴたりと止まる。
「うわ、……か、かわいい」
生後どれぐらい?まだ子供だよね?暗がりでもはっきりと分かる距離まで近づけばそれが明確になった。
ふわふわで、少しだけ毛を逆立てて、くりくりの目であたしを見てくる真っ黒な子猫。
思わず漏れた感想に警戒心を剥き出しにしたその小さな口からは、威嚇の音が僅かに聞こえた。
「怖くないよ、ほら、おいで」
できるだけその子と同じ視線を取るためにその場にしゃがみ込んで手のひらは上向きに。
地面にくっつけるみたいにして伸ばしてみると嫌な違和感をあたしの手の甲が捉えた。
「え、」
暗くても分かる。まだ生温かくて、まるで今垂れ流されたみたいなそれ。ほんの少し鉄の臭いが鼻を掠めて、決して少なくはない量の血がこびりついている。