第1章 シークレットメロディ
三週間だ、たったの。たったの三週間であたしの平穏な生活がまた逆戻りをした。最初の5日は半信半疑で10日を過ぎると少しだけ信じたくなった。半月が経って気が抜けて、20日目には存在すら薄くなってたのに。
きっちり三週間、それも見計らったみたいにヘラヘラした笑顔であたしの目の前に凝りもせず現れた男。
あれ?もう関わらないって言いませんでした?そんな言葉が音になる間もなく、太刀川さんと訳の分からない話しを繰り広げてみせた2日前。
思い出すとむかっ腹の立つやり取りに、また思考が飲み込まれていることに気づいてはっとする。
この時期の寒さで中々起きれなくて、そんな時に限って髪も中々纏まらなくてイラっとするよりも、ゼミで飲み会の幹事を何故かすることになって、酔った面子を振り払うたび、酒臭さと間抜けな笑顔にイラッとするよりも。
そんなものより、酷い苛立ちがむくむくと湧いては消える。
そのまま消えて一生出てこなければいい、あの男もこないだの話しも。
飲みの帰り、夜空に白い息が上がった理由は肉体的な疲労感だけじゃない。今後の身の振り方を自分自身で案じているからだ。
コートからはみ出る指先が冷たくて、一度そう感じてしまうと後から後から急激に体温が奪われる気がして、慌てて両ポケットに突っ込んだ。
それしか考えられない。
やっぱりそうだった。
太刀川さんと迅さんの言葉をこの数日でどれだけ噛み砕いたことか。あたしのこの変てこりんだか感受性が強いんだか形容し難い性分を、あの二人が知っていたって、何にも不思議なことなんてないでしょ。
だってどれだけの人間がこの星に生きてると思ってるんだ。みんながみんな一緒だと思う方がどうかしてる。
世の中にはもっと得体の知れない、自分の知らない物事なんて腐るほどあるんだし。
ボーダーだってそうだ。
今でこそ定着しつつある防衛機関も、三年前のあの大惨事後には好奇の視線や声がそこかしこから上がってた。