第3章 玄英宮に響く歌声
「様、もうこれほど弾きこなされるとは……。もはや教えることなどございませんわ」
指導にあたっていた女官が感嘆の声を漏らすほど、楽士としての腕前は日に日に上達していった。
複雑な弦の響きも、この世界の繊細な旋律も、彼女の指先にかかれば魔法のように美しい音色へと変わる。
だが、どれほど楽器の腕を磨こうとも、やはり彼女にとっての真骨頂はその唯一無二の歌声にあった。
文字の読み書きを覚え、この世界の歌を歌えるようになっても、彼女が一番大切にしていたのは、故郷・蓬莱の歌だった。
そこに込められた郷愁や、優しさ、時に激しい感情の揺らぎは、聴く者の魂に直接語りかける力を持っていた。
「歌は……私の、一番の宝物……」
窓辺に座り、独りごとのように呟く。
研鑽を積んだ楽器の音色は、彼女の歌声を支える確かな翼となった。
技術を磨き知識を蓄え一人の「楽士」として、彼女は玄英宮という新しい土壌に深く根を張りより美しく、より気高く花開こうとしていた。
今日も玄英宮の廊下にはどこからともなく清らかな旋律が流れ出し、道行く人々の足を止めさせていた。
「この調べは……ああ、様ですね」
女官たちが顔を見合わせ、慈しむような微笑みを交わす。
今や彼女の歌声や演奏は、この広大な宮殿にとって欠かせない「心の休息」となっていた。
王宮の楽士として日々を過ごす中で、はこの世界の楽器を使いこなし、ついには蓬莱の歌をこちらの旋律に合わせ、楽士たちに教え始めるまでになっていたのだ。
「殿、今の節回し……私たちの音楽にはない独特な跳ね方ですね。非常に興味深い」
彼女を取り囲むのは長年宮廷に仕えてきた老練な楽士たちだ。
最初は「海客の小娘」と侮る者もいたが、彼女が奏でる蓬莱の歌や複雑な和音は時に切なく、時に弾むような全く系統の違う音楽を耳にするやいなや、彼らの探究心に火がついた。
「ええ。私の故郷では、こんな風にリズムを刻むんです。少し難しいですけど、合わさるとすごく楽しいんですよ」
が軽やかに弦を弾きステップを踏むように歌い上げると、楽士たちは目を輝かせて楽器を構えた。