第3章 玄英宮に響く歌声
ふと、は今日学んだばかりの歴史の記述を思い出し、問いかける。
「あの……先ほど教わった歴史の中で、今の雁国の治世が五百年を超えているとありましたが……。それって、本当になんと表現していいか分からないくらい、凄いことですよね?」
五百年。
蓬莱の感覚で言えばいくつもの国が興り、滅びていくのに十分すぎる時間だ。
それをたった二人の男が支え続けている。
「ええ、本当に。私たちがこうして平穏に暮らせるのも、主上と台輔がいらしてこそですわ」
女官は誇らしげに目を細め言葉を続けた。
「この広い十二国の中でも、これほど長い間、一度も国が傾くことなく王が玉座にあり続けることは、民にとって何物にも代えがたい幸せなのです。現王朝では、奏国に続き二番目に長い治世なんですよ。私たち女官もお二人に仕えられることを心から誇りに思っておりますの」
「二番目……。五百年も続けて、それでもまだ上がいるなんて。この世界の時間の流れは、私の知っている場所とは全然違うのですね」
は、茶杯の中に揺れる自分自身の顔を見つめた。
頭に浮かぶのは執務室で死にそうにな顔をしながら書類と格闘し、自分を見つけると「救世主が来た!」と子供のように喜ぶ尚隆と六太の姿だ。
(あんなに気さくで、時にはだらしないお二人だけど……。五百年もの間、ずっとこの国の人たちの命を背負って戦い続けてきたんだ)
そう思うと、改めて二人の存在の大きさに胸が震えるような心地がした。
「……お二人が、もっともっと長く、この国を治めてくださればいいなと思います。私にできるのは、歌うことくらいですけど」
「あら、その歌声こそが、お二人の最大の支えになっているのですわよ。あんなに大人しく執務室に戻られるお姿、様がいらっしゃる前には考えられませんでしたもの」
「ふふ、そうでしょうか」
は少し照れくさそうに笑いながら空を見上げた。
五百年という果てしない時を歩んできた王と麒麟。
その長い旅路のほんの一瞬だとしても、自分が彼らの「安らぎ」になれているのなら本望だ。
次二人に歌う曲はもっと優しいものにしようと、彼女は密かに心に決めるのだった。