第3章 玄英宮に響く歌声
「なるほど、実に面白い! 雁の伝統的な旋律に、そのリズムを組み込んだらどうなるか……!」
「やってみましょう。これは新しい音楽の夜明けかもしれませんぞ」
言葉の壁を越え、音楽という共通言語を通じて育まれる深い交流。
彼女という一石が投じられたことで停滞していた宮廷音楽の世界に、新鮮な風が吹き込まれていった。
その様子を執務の合間に遠くから眺めていた尚隆が、満足げに鼻を鳴らす。
「おい、六太。あいつ、もうすっかり『先生』の顔だな」
「本当だ。楽士のじいさんたちが、あんなに必死になって練習してるの初めて見たよ。……でも、やっぱりあいつの歌が一番いいな。混ざり合っても、芯にあるあの響きは変わらない」
「ああ、そうだな。……さて、あの新しい『音』を特等席で聴くためにも、さっさとこの紙の山を片付けるとするか」
二人は顔を見合わせると、いつもより少しだけ前向きな足取りで、それぞれの仕事へと戻っていった。
玄英宮に響く歌声は今やこの国を動かす者たちの、そして文化を育む者たちの確かな糧となっていたのである。
朝食後に女官から文字や理を学び、昼食後は楽士たちと音楽の研鑽に励む。
その合間を縫うようにして、職務を放り出した尚隆と六太が彼女を連れ去り、特等席で歌を聴いては英気を養っていく。
そんな賑やかで充実した日々が、にとっての「日常」になっていた。
ある日予定していた課題を驚くほどの速さで書き終えたに、付き添いの女官が柔らかな笑みを向けた。
「今日は一段と捗りましたわね。少し早いですけれど、休憩にいたしましょう。とっておきのお茶を淹れますわ」
「ありがとうございます。……ふふ、少しずつですけど、読める文字が増えていくのが楽しくて」
淹れたての茶の香りが部屋に満ちる中、二人は穏やかな茶飲み話に興じていた。