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蝕に攫われた春 【十二国記 延王】

第3章 玄英宮に響く歌声



「朱衡様、お二人とも、だいぶお疲れのようですし……。どうか、ほどほどによろしくお願いしますね?」



その控えめな進言に朱衡は手に持っていた巻物を握り直し、深いため息を吐いた。



「……困ったものです。彼らが最初から逃げ出さず、真面目に取り組んでいただければ、公務などもっと楽に、早く終わるはずなのですがね。自業自得という言葉を、あの二人の顔の横に貼り付けてやりたいくらいですよ」


「ふふ、確かにそうかもしれませんけど」


「ですが、まあ……。あなたが来てから、彼らの仕事の能率が上がったのは事実です。これでも、以前よりは『ほどほど』に手加減しているつもりなのですよ」



朱衡は少しだけ困ったような、それでいて親愛の情が滲むような苦笑いを残すと、「では、失礼します」と一礼して二人の後を追っていった。



一人残されたは静かになった庭園を見渡した。
王様も、麒麟様も、それをお世話する官吏様も、みんな一生懸命にこの国を支えている。
そのほんの少しの合間に、自分の歌が役に立っている。
その実感が、の胸をこの上なく温かく満たしていた。




一人になると、は静かに自室へと戻った。
以前のようにただ手持ち無沙汰に過ごすことはもうない。
彼女は玉葉たち女官の助けを借りながら、この世界の文字や理を学ぶ勉学に励み、さらにはこちらの楽器の奏法を習い始めていた。
宮殿には「楽士」という名目で迎え入れられたのだ。
その名に恥じぬよう、そして自分を救い出してくれた尚隆の期待に応えるべく、彼女は日々、驚くほどの熱量で研鑽を積んでいた。


妓楼にいた頃も多少の手習いは受けていたが、もともと彼女には並外れた音楽の才があった。


新しい知識や技法に触れるたび、彼女はそれを乾いた砂が水を吸い込むように、瞬く間に自分のものにしていった。



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