第2章 再会を待つ風
が玄英宮に来て半月が経とうとしていた。
その日の午後も穏やかな陽光が庭園を包んでいた。
は柔らかな草の上に座り、付き添う女官たちとお喋りに花を咲かせていた。
ようやくこの宮殿での生活にも慣れ、彼女の表情からは妓楼にいた頃の陰りは消え、年相応の明るさが戻っていた。
「ーー随分と楽しそうだな。俺も混ぜてもらっても構わないか?」
不意に背後から低く、聞き馴染みのある声が響いた。
その瞬間、隣で笑っていた女官たちが弾かれたように立ち上がり、一様に顔を伏せ、微塵の乱れもない動作で深く首を垂れた。
(あ、この声……!)
の胸が高鳴った。
ずっと待ち望んでいた恩人の声だ。
やっとお礼が言えるとその喜びに溢れ、彼女は勢いよく振り返った。
「ーー風漢さん!」
だが、その視線の先にいた男を見て、は言葉を失った。
そこにいたのはあの夜、着流しで妓楼に現れたどこか粗野で食えない風来坊の男の姿ではなかった。
髪は整えられ、シンプルながらも一目で上等とわかる品格のある衣を纏っている。
何より、立っているだけで周囲の空気が張り詰めるような、圧倒的な威厳をその身に宿していた。
「あ……えっと……」
あまりの雰囲気の違いには戸惑い、思わず後退りした。
だが、その精悍な顔立ちも、茶目っ気のある瞳の光も、間違いなくあの夜の男のものだった。
「……風漢、さん……ですよね?」
恐るおそる問いかけると男は相好を崩し、以前と変わらない不敵な笑みを浮かべた。
「ああ。だが、その名は地上で名乗るときの偽名だ。窮屈な宮中を抜け出して遊ぶためのな」
男は一歩、歩み寄ると、驚きで固まっている彼女を真っ直ぐに見つめた。
「ここでの名は尚隆(しょうりゅう)。称号で言うなら『延王』だ。雁州国王、『延』この雁州国の王を務めている。……散々待たせて悪かったな、」
「え……延王、様……?」
は頭の中が真っ白になった。