第2章 再会を待つ風
歌い終えるたびに、女官たちが頬を赤らめて感嘆する様子を見て、もまた「自分の歌で誰かが救われる」という喜びを、この世界に来て初めて知った。
いつしか彼女の世話を担当することは、女官たちの間で「最高の名誉」であり「特権」となった。
決して威張らずむしろ自分たちを気遣うの優しさは、厳格な階級社会に生きる彼女たちにとって新鮮な驚きだった。
そして何より、彼女が頑なに希望し続けている「食事会」が、女官たちの熱をさらに煽った。
主と同じ食卓を囲み、一人では食べきれないほどの贅沢な料理を分かち合う時間は、王宮の長い歴史の中でも女官たちにとって前代未聞の幸福なひとときだった。
「今日は私の番だったはずよ」
「いいえ、あなたは昨日、お庭の散歩に同行したでしょう。今日は私の番だわ」
配膳の準備をする際女官たちの間で小さな火花が散るほどになり、ついに見かねた玉葉が仲裁に入る事態となった。
「これこれ、静かになさい。様の前で見苦しい真似を。……これからは、私が厳密に管理し、平等に交代制で担当を決めます。異論はありませんね?」
「「「はい……」」」
こうして、玉葉によるシフトの管理が導入されるほど、は玄英宮における「愛される主」として定着していった。
一方、その賑やかな噂は重厚な扉を隔てた執務室で書類の山に埋もれている男の耳にも、微かに届いていた。
「おい、朱衡。あっちの棟から、随分と楽しそうな声が聞こえてくるじゃないか」
尚隆が目の下の隈を擦りながら筆を止める。
朱衡は表情一つ変えず、淡々と次の書状を差し出した。
「ええ。女官たちの間では、主上よりも様にお仕えしたいという声が圧倒的ですよ。仕事を放り出して街を徘徊する王より、美しい歌で癒やしてくれる女性の方が慕われるのは、自明の理ですから。……さあ、次は徴税の報告書です。これを終わらせれば、面会までの距離がまた数里は縮まりますよ」
「……あいつ、俺がいない方が楽しそうにしてるんじゃないか? 泣けてくるぜ、全く」
尚隆は苦笑を漏らしながらも、再会の瞬間に彼女に見せるべき「王」としての威厳を思い描き、再び猛烈な勢いで筆を走らせた。