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蝕に攫われた春 【十二国記 延王】

第2章 再会を待つ風


「確認して参ります」と一人が立ち上がろうとした時、ちょうど戻ってきた玉葉が割って入った。



「様、風漢様のことでございますね。……あの方は今、非常に重要な公務に追われておりまして、こちらへお顔を出すには、もう少しお時間がかかりそうなのです」


「……そうですか。やっぱり、すごくお忙しい方なんですね」



は、膝の上で手をぎゅっと握りしめた。
寂しさが隠しきれずわずかに俯く。
自分を助けてくれたあの人に、一言だけでも「ありがとう」と伝えたい。
そのあまりにもの落胆ぶりに、玉葉はそっと歩み寄り提案した。



「せっかくの良いお天気です。よろしければ、宮殿の庭園をお散歩されませんか? 珍しい花もたくさん咲いておりますよ」


「お散歩……! はい、ぜひ。外の空気を吸いたいです」



の顔に、ぱあっと明るい色が戻る。



「ありがとうございます、玉葉さん!」



弾んだ声で返事をする彼女を見守りながら、玉葉は内心で(主上、これ以上彼女を寂しがらせては可哀想ですよ……)と、書類の山と戦っているはずの「風漢」こと延王に、そっと苦言を呈するのだった。










それからの数日間、玄英宮の一角にはこれまでの静寂が嘘のような穏やかな時間が流れていた。
にとっていきなり与えられた「自由」は最初こそ戸惑いの対象だったが、彼女は持ち前の素直さで瞬く間に女官たちの輪に溶け込んでいった。


手持ち無沙汰になれば女官の仕事の邪魔にならない程度に故郷の話をしたり、逆にこの世界の不思議な習わしを教わったりと、言葉を交わす喜びを噛み締めた。
そして、何より女官たちを虜にしたのは、彼女の「歌声」だった。



「なんて綺麗な声。聴いているだけで、心が洗われるようですわ」


「様、お願いです、もう一曲だけ!」



広い部屋に響き渡る、透き通った異国の旋律。
妓楼で男たちの欲望を満たす道具にされていた歌は、今や彼女を慕う者たちの心を癒やす、純粋な祈りのような響きを帯びていた。




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