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蝕に攫われた春 【十二国記 延王】

第2章 再会を待つ風


「女官と食事を共にするとは……よほど寂しかったのか、それとも、蓬莱ではそれが普通だったのでしょうか……」


「おそらく、どちらもでしょう。とてもお心の優しい方のようで、食べ切れないのは勿体ないから皆で、と……。打ち解けた後は、故郷のお話なども少し聞かせてくださいました」


 
玉葉の報告を聞き尚隆はふっと肩の力を抜いて、背もたれに深く体を預けた。




「……そうか。笑っていたか。なら、いい」



その顔には妓楼で彼女の悲痛な歌声を聞いた時のような険しさはなく、どこか安堵したような穏やかさが浮かんでいた。



「玉葉、大儀だった。引き続き、彼女の心の支えになってやってくれ」


「承知いたしました。では、失礼いたします」



一礼した玉葉が退室すると再び部屋に静寂が訪れる。
尚隆は大きく伸びをしながら、隣の朱衡に視線を向けた。



「聞いたか、朱衡。相席なんて、あいつらしいじゃないか。……ああ、俺も早くその輪に混じりたいところだ。美味い酒でも持ってな」


「主上」




朱衡がぴしゃりと筆を置く音が響いた。
彼は満面の笑みで尚隆を射抜いた。 



「早くお会いしたいのなら、その口を動かす前に手を動かしてください。あなたが溜め込んだ案件のせいで、彼女を待たせているのですよ? 私の提示した条件、忘れたわけではありませんよね」


「……分かってるさ。分かってるとも」  



尚隆は溜息を吐きながら、再び渋々と筆を握り直した。



「全くな……。王様業ってのはつくづく難儀だな」


「……さあ、次はこちらの予算案です。終わるまで夜通しお付き合いしますからね」


「鬼め……」



ぼやきながらも、尚隆の筆は先ほどよりも心なしか速くなっていた。
窓の外には静かな雁州国の夜が広がっている。
近くの宮殿では、救い出した少女が安らかに眠っている。


その事実だけが、今の彼を突き動かす唯一の原動力だった。




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