第1章 海客の少女
朝が来るたび、は鏡の中の自分を眺める。
瞳の光は少しずつ濁っていく。
男に抱かれるたびに自尊心という名の欠片が、指の間からこぼれ落ちていった。
逃げ出したくても、一歩外に出ればどこの国なのかさえ分からない。
言葉を奪われた彼女は、目隠しをされたまま崖っぷちに立たされているようなものだった。
「どこへ……行けばいいの……」
掠れた日本語が誰にも届かぬまま部屋の隅に消え、彼女はただ消耗していく。
終わりなき夜の底で、救いのない眠りを待つしかなかった。
それからも、地獄のような夜は容赦なく繰り返された。
毎夜、違う男の体温と酒の臭いに塗りつぶされる日々。
が涙を流そうが、言葉の通じぬ男たちにとっては、それすらも異国の希少な女が放つ「悦びの声」にしか聞こえないようだった。
「やめて、もう嫌……」
その懇願は、男たちの粗野な笑い声にかき消される。
彼女の持つ絹のような肌と、肢体のしなやかさは瞬く間に客たちの間で評判となった。
『いい体だ。これならいくらでも金を出せる』
『この娘は、鳴き声まで美しいな』
女主人は日々積み上がる金貨を眺めては、満足げに目を細めた。
『よくやった。お前は本当にいい稼ぎ頭だよ』
女主人がかける言葉の意味は分からずとも、その執着に満ちた笑みが、自分の尊厳が切り売りされて得られているということだけは痛いほど理解できた。
の心は日に日に削られていく。
鏡に映る自分は、精巧に作られた死体のように生気がなかった。