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蝕に攫われた春 【十二国記 延王】

第1章 海客の少女


太陽の光が真上から地上を照らす頃、は昨夜の六太の言葉を信じ、手持ちの中で最も清潔な衣を纏って静かに待っていた。
やがて、階下から地響きのような騒がしさが伝わってくる。


いつもの客の喧騒とは違う、もっと重々しく張り詰めた空気だった。
それを不思議に思いながらも部屋で大人しく待っていると突然、部屋の戸が乱暴に開け放たれた。



『何してるんだい、早く来な!』



同僚の女が、顔を真っ青にしての腕を掴む。



「あの……どうかしたんですか?」



問いかけても、怯えた様子の彼女は何も答えず、ただ引きずるようにしてを階下へと連れて行った。




広間に降り立った瞬間、はその場の光景に息を呑んだ。
いつもあんなに傲慢だった女将が、豪華な装束を纏った男の前で額を床に擦り付けるようにして平伏していたのだ。
中央に立つ青年は穏やかで理知的な雰囲気を纏っていた。
羽織っている衣の刺繍は細密で、一目で並の身分ではないと分かる。



(どこかの役人の、偉い人なのかな……?)



が戸惑いながら見つめていると、青年は女将との短い会話を終え、まっすぐにこちらへ歩み寄ってきた。
そして、一礼すると優しく微笑みながら口を開いた。



「あなたが、流花さんですね。——私の言葉が、分かりますか?」



その流暢な日本語に、は息を呑んだ。



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