第1章 海客の少女
「わかったよ、飲めばいいんだろ、飲めば。……その代わり、朱衡。彼女に無体な真似はするなよ。これまでの環境で、男というものにひどく怯えてる」
「わかっております。私はあなたほど野蛮ではありません」
朱衡は慇懃無礼に一礼すると、鮮やかな手つきで書状を回収した。
「では、私は準備に取り掛かります。主上は……そうですね、まずはその机の右側に積み上がった、治水工事の報告書から手をお付けください。終わるまで、一歩も部屋を出さないよう衛兵に伝えておきますから」
「……鬼か、お前は」
主上の恨み節を背中で聞き流しながら、朱衡は職務室を後にした。
内心では延王をここまで動かした娘に、少なからず興味を抱きながら。