第16章 コインロッカー
<リストラされた男性の証言>
あの体験が何だったのか、自分の中ではっきりとした結論は出せないままだ。
一つだけはっきりと分かるのは、あまりこのことに深入りするべきではない、ということだ。
しかし、とてもじゃないけれどもこのまま過ごし続けることなんてできない。だからどうか聞いて欲しい。
信じてもらえなくても構わない。ただ、私がこの体験を整理するのに付き合ってくれれば、それでいい。
事の次第から話そう。
あれは、数年前のことだった。
私は会社をリストラされ、しばらく職がなくブラブラしていた時期があった。
ある日、私の携帯に電話がかかってきた。いくつか受けた会社の採用試験の合否通知かと思い、勢い込んで出てみると、感情を排した、合成音声のような女の声が受話器から流れてきた。
「割のいいアルバイトがあるのですが、興味はありませんか?」
いたずらか、何かの詐欺かと思い、切ろうかと思った矢先
「1時間ほどの作業で10万円を用意いたします。」
と言われ、気持ちがぐらついた。
正直、その時は収入のあてはなく、お金に困っていた。まだ失業保険は出ているにしても、余剰資金はいくらあっても良かった。
「仕事はカンタンです。あるコインロッカーから荷物を取り出し、別の駅のロッカーに入れてもらうだけです。」
ものすごく怪しい。覚せい剤とか、後ろ暗い金とか、そういうのではないのだろうか?犯罪の片棒をかつぐことになるんじゃないだろうか・・・。
そう思いながら、私は話を聞き続けてしまった。先方はそれを「諾」の印と受け取ったのかもしれない。更に話を進める。
「条件がいくつかあります。
ひとつ、ロッカーの中身については、誰にも他言しないこと。
ふたつ、ロッカーの中身の「中」を決して見ないこと。
みっつ、ロッカーの中身をすべて全く同じように移すこと。」
引き受ける場合には、鍵は午後にでも郵便受けに入れておく、というのだ。私はちょっと迷ったが、引き受けることにした。
果たして、ロッカーの鍵とコインロッカーの場所を記した紙が午後、いつの間にかポストに投函されていた。期限は明日の夕方までで、次のロッカーの場所は自分で決めていいということだったが、環状のY線の駅の何処かでなければいけないとのことだった。