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軋む両輪1【気象系BL】

第1章 Under the rader


翌朝、警視庁の廊下を歩く二人の空気は、端から見ればこの上なく睦まじいものだった。

「松本、昨日はよく眠れたか?」
「はい! おかげさまで、櫻井さん」

櫻井がふと足を止め、松本の肩に付いた糸屑を払う。その動作があまりに自然で、かつ親密だったため、通りかかる職員たちが「新婚さんかよ」と揶揄するように笑った。松本は顔を赤らめ、櫻井はいつもの余裕たっぷりの微笑みを返す。

だが、松本の胸の内には、昨日までにはなかった微かなささくれが生じていた。

その日の午後、外回りの捜査から戻る途中のことだ。櫻井が「少し電話してくる」と、松本を車に残して路地裏へ消えた。ほんの数分。戻ってきた櫻井はいつも通りだったが、松本の鋭い鼻が、彼のスーツから微かに漂う、嗅ぎ慣れない異国の煙草の匂いを捉えた。

(翔くん、煙草は吸わないはずなのに……)

さらに、その直後の報告会議。櫻井が提示した潜入先のルートに、松本は小さな違和感を覚えた。それは不可能ではないが、何故か公安自ら設置した監視カメラを避けるような、随分と慎重で遠回りな動線だった。

「……櫻井さん、ここのルート、少し不自然じゃありませんか?」

松本が真っ直ぐに櫻井を見つめる。櫻井は一瞬だけ、本当に一瞬だけ、瞳の奥の温度を消した。だがすぐに、とろけるような甘い笑みを浮かべ、松本の頭を優しく撫でた。

「ここはな、松本。味方にも悟られないように慎重に動かなければいけないんだ。」

その言葉と温もりに、松本の思考は一瞬で停止する。かっこいい。優しくて、頼りになって、やっぱり僕はこの人を信じたい。
だが、その優しさこそが、櫻井が危機を脱する時の手口であることに、松本の直感が警鐘を鳴らし始めていた。
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