第1章 Under the rader
作戦用の隠れ家として用意されたマンションの一室。
重い防音扉を閉めた瞬間、それまでの「公安警察官」としての空気が、微かに揺らぐ。ここでは外部の目はなく、二人はただの「同居人」という名目で過ごすことになっていた。
「疲れたな。……潤、先にシャワー浴びていいよ」
櫻井が、ネクタイを緩めながらそう言った。
「櫻井さん」から「翔くん」へ。公私を使い分けるのが潜入捜査の基本だが、櫻井の口から出る「潤」という響きには、松本をときめかせるには十分すぎるほどの親密さが宿っていた。
「……ありがとうございます、翔くん」
松本が少し照れくさそうに微笑み、バスルームへと消える。
一人残されたリビングで、櫻井はソファに深く身体を沈めた。表情から温和な笑みが消え、冷徹な「スパイ」の顔が戻る。
(……松本潤。こんなに急なタイミングでバディを組むなんておそらく監察が監視役として寄越したんだろう。)