第1章 Under the rader
移動の車内でも、松本の鼓動は静まらなかった。資料を指し示す際、櫻井の肩が松本の腕にぴったりと触れる。狭い車内に、櫻井から漂う清潔感のある香水の匂いが広がり、松本の感覚を麻痺させていく。
「松本、ここは重要だ。忘れないように」
「は、はい……!」
耳元で囁かれる低く落ち着いた声に、松本は耳の裏が熱くなるのを感じた。櫻井の視線を感じる。顔を上げても彼は微笑みながら目を離さない。
「さくらい……さん?」
両手が顔に伸びてくる。松本は思わず目をつぶる。櫻井は松本のネクタイを慈しむような手つきで直すのだった。松本はふっと息をつき、「曲がってんぞ」と至近距離で呟く彼から目を逸さずにはいられなかった。
捜査官としての淡い憧れが、実体を持った抗いがたい恋慕に変わるのはあっという間だった。
「あーもう。必死で仕事について行かなきゃなのに、何恋なんかしてんだよ。」
一人になった資料室で松本が呟く。櫻井の行動全てが、自分という監視役の警戒を解くための高度な演技であるとも知らずに。