第1章 Under the rader
警視庁公安部。日本の安全保障という重責を担うそのフロアは、常に張り詰めた静寂と、冷徹な理性に支配されている。松本潤は、支給されたばかりのIDカードを握りしめ、緊張に背筋を伸ばしていた。
「本日付で配属されました、松本潤です。よろしくお願いします!」
広いフロアに、松本の若々しい声が響く。周囲の捜査官たちが一瞬だけ目を向け、またすぐに手元の端末へと視線を戻す中、一人の男がゆっくりと椅子を回した。
「……よろしく、松本。君のことは、上から優秀だと聞いているよ」
その声を聞いた瞬間、松本の心臓がトクンと大きく跳ねた。
そこにいたのは、公安のエース、櫻井翔だった。仕立ての良いスリーピースのスーツを完璧に着こなし、知性と余裕を感じさせる柔らかな微笑みを湛えている。松本にとって、2期上の櫻井は警察学校時代からの憧れであった。
「さ、行こうか。まずは現場の空気に慣れてもらわないと」
櫻井が立ち上がり、松本の横を通り抜ける。その際、彼は当然のように、ぽん、と松本の頭に掌を置いた。
「っ……」
くしゃりと優しく髪を撫でられ、松本は思わず息を止めた。
公安の人間はもっと氷のように冷たいものだと思い込んでいた。だが、櫻井の掌から伝わる温度は驚くほど温かく、そして力強い。
「……あ、あの、櫻井さん。僕、精一杯頑張りますから!」
松本が慌てて後を追うと、櫻井は振り返り、とろけるような甘い眼差しを彼に向けた。まるで愛おしい宝物を眺めるようなその視線に、松本の頬は瞬時に熱を帯びる。
「はは、いい返事だな。……期待しているよ、松本」