第1章 Under the rader
キーボードを叩く音が、静かな部屋に無機質に響く。
松本は、その冷徹な横顔を呆然と見つめた。
仕事中の甘さは、他人の目を欺くための装置。そして、プライベートでのこの冷たさは、自分への警戒と、物理的な距離を置くための防壁なのだ。
(仕事中、あんなに優しくしてくれたのは……僕に、何も考えさせないためなんだね)
松本は、重い足取りでバスルームへと向かった。
鏡に映る自分の顔は、憧れの人の裏切りを予感して、酷く惨めな表情をしている。
一方で、櫻井は画面上の文字を見つめながら、奥歯を噛み締めていた。
松本を突き放さなければならない。昨夜、自分の痕跡を見たかもしれない彼を、これ以上懐に入れるのはあまりに危険だ。
だが、視界の端で力なく肩を落とした松本の姿が、櫻井の胸を締め付ける。
(……甘やかして、依存させて、思考を停止させろ。それが僕の生きる道だ)
櫻井は自分に言い聞かせ、より一層冷たい光を瞳に宿した。
仕事では最高に甘い、理想の先輩。
プライベートでは自分を寄せ付けない、冷徹な恋人。
その極端な二重生活が、松本の心を、そして櫻井自身の正気を、確実に削り取っていった。