第1章 Under the rader
翌朝、警視庁公安部のフロアに現れた二人は、昨日までとは比較にならないほどの密着ぶりを見せていた。
「おはよう、松本。」
櫻井は出勤してきた松本の元へ歩み寄ると、周囲の視線も憚らず、愛おしげにその髪を整えた。
「あ……お、おはようございます、櫻井さん」
松本は動揺を隠せない。昨夜、あの暗闇の中で見た痕跡が脳裏を離れず、一睡もできていなかった。だが、櫻井の瞳には一点の曇りもなく、むしろ以前にも増して潤んだような、熱を帯びた眼差しを松本に向けている。
「顔色が悪いな。無理はさせたくないんだけどな……。ほら、コーヒー。お前の好きなブラックだ。」
櫻井は優しく微笑み、松本の肩に手を置いた。その掌は温かく、指先が時折、松本の項をなぞるように動く。周囲の同僚たちは「あそこまで露骨だと、こっちが恥ずかしいよな」と苦笑いしているが、松本にとっては、その過剰なまでの慈しみが、自分を真実から遠ざけるための目隠しに見えて仕方がなかった。
仕事中、櫻井は徹底して松本を甘やかし、守った。会議中も隣に座り、さりげなく松本の手の上に自分の手を重ねる。
「落ち着いて、俺がいる」
報告のために壇上に向かう時にかけられたその言葉に、松本の胸は憧れと恐怖で激しく千切られそうになる。
しかし夕刻、仕事を終えて潜入用のセーフハウス(隠れ家)に戻った瞬間、櫻井の態度は一変した。
「……先に風呂に入れ。俺は仕事が残っている」
リビングに入った櫻井は、ネクタイを乱暴に緩めると、松本の顔も見ずに自室のデスクへと向かった。
仕事中、あれほど松本を愛おしげに見つめ、周囲に仲睦まじさを見せつけていた男とは思えないほど、その背中は冷たく、拒絶の色を帯びている。
「……翔くん。……昨日のことだけど」
「終わったことだ。いちいち蒸し返すな」