第1章 Under the rader
(……え?)
ほんの数ミリの、盛り上がり。よく見なければ分からないほどの小さな突起だが、その不自然な幾何学的な皮膚の隆起は、松本が以前、公安の資料室で目にした「工作員の生体チップ埋め込み例」と、不気味なほど一致していた。
松本の動きが、目に見えて凍りついた。
(……っ! しまった……見られたか……!)
櫻井は松本の視線の動きだけで、彼が何に触れ、何を見たかを瞬時に悟った。
全身の血の気が一気に引く。心臓が警鐘を鳴らし、公安の、そしてスパイとしての理性が「今すぐこいつを排除しろ」と叫んでいる。
だが、ここで強引に行為を中断すれば、松本の疑惑は「確信」へと変わる。今さら隠しても遅い。ならば、このまま快楽で彼の脳を焼き切り、思考を停止させるしかない。
(……続けるしかない。……潤の理性を、僕が殺すんだ)
「……潤、どうした? もっと壊してくれ……っ」
櫻井は必死の思いで、震えそうになる声を情欲の響きに変えた。自分を見つめる松本の瞳に宿った、愛欲とは明らかに質の違う冷徹な光を、強引なキスで塞ぎにいく。
櫻井は松本の首に腕を回し、自分でも信じられないほど激しく繋がりを締め上げた。肩の筋肉を強張らせ、自らも絶頂の淵へと自分を追い込む。
「……翔くん、……っ、あ……」
松本は再び、櫻井の熱に溺れていく。だが、その頭の中では、今見た「証拠」と、目の前の「愛する人」が、恐ろしい速度で乖離し始めていた。
(嘘だ……嘘だと言ってよ、翔くん……)
櫻井もまた、汗ばんだ身体で松本を抱きしめながら、冷酷に計算していた。
この夜が終われば、もう元には戻れない。
明日からは、仕事中での「甘い先輩後輩」の演技をさらに過剰に、さらに完璧に塗り固める必要がある。この若きバディを、疑惑の深淵から引き戻すために。あるいは、彼が真実に到達する前に、自らの手で引導を渡すために。
重なり合う肌の熱さとは裏腹に、二人の心には、決して溶けることのない氷の楔が打ち込まれていた。
「……あ、っ……翔くん……!」
「……っ、潤……、潤……っ」
絶頂の瞬間、二人は強く抱き合った。
それは愛の確認ではなく、自分たちがもう引き返せない地獄の入り口に立ったことを、本能で悟った者の共犯の抱擁だった。