第4章 ナイト・メロウ・シンドローム
同じ場所でも昼と夜ではまた別の顔が見れる。観光地やベストスポットの謳い文句によくある文言は、付き合いたてのカップルの気を引く格好のキャッチコピーだ。
大々的に広告を打たなくても、主流に載せれば勝手にバズる。ひとたび拡散されるとあとはもう入れ食い状態で、例えばそれがデートにうってつけな場所だったとしたら。
高校生で彼氏もちだと絶対行っちゃうよねって話。まぁ、別れたばかりの私には響かないんですけどね。
「え、やば、めっちゃ綺麗。プロじゃんこれ」
背景は黒。オフィスビルの冷光とその手前には飛沫が高く上がる噴水。青や緑の色までついて、ウォーターショーさながらな景色をスマホカメラに収めてみる。
普段から撮り慣れている友人達なら、風景を切り取るワンショットなど朝飯前だろう。だけど画面を通すより肉眼でちゃんと見たい派な私のスマホカメラは、ひと月に1度起動するかどうかのレアアプリだ。
そんなど素人が撮った割には味のある一枚を、滅多と開かないSNSに投稿してから、平日の終電2時間前、貸切状態のそこで、敢えてベンチは使わず石段に座った。
「…………ほんと綺麗だな」
焦点を合わせてなくても、ぼんやりと映すだけで、光が滲んでくる景色はずっと見てられる。加えて霧雨に近い水飛沫は、もうとっくに夏が終わったくせ、まだしつこく暑さが残る初秋の温度を下げてくれるような気さえした。
頭を空っぽにしたら、視覚と聴覚がやけに敏感になって、水の音だけを拾うはずが、さすがは都会。遠くで聞こえるクラクションや、酔っ払いの罵声にまんまと邪魔をされる。途端に私の思考はすごい勢いで濁っていくのが分かった。
無駄なことに時間を費してる自覚はある。自宅から1時間もかけて、それも夜にこんなとこまでフラフラと足を伸ばして。
明日も学校で、朝は6時起きで、終電で帰ったら確実に寝不足になる。元彼と2人で見た景色を今度は1人で見にくるなんて馬鹿にもほどがある。
それでも家で悶々と燻るぐらいなら、とことん感傷に浸ってやろうと。そうやって、消えそうな火種をわざわざ自分から起こしに行くんだ。まるでかさぶたを剥がすみたいに。