第4章 ナイト・メロウ・シンドローム
「なにやってんの」
「……へ?」
傷心中の女子は一度自分の世界に入ると全てが遮断されるのか。単に私が間抜けな顔を晒してぼーっとしてただけなのか。石段の先、僅か数メートルの距離で、どこか呆れた表情を貼り付けて立っていたのは研磨くんだった。
「いやそれ私のセリフ。何してんの?」
隠すこともせずに研磨くんが息を吐き出す。ゆっくりと近づいて右隣に座った彼が、さっき上げたでしょって呟いて、一瞬だけ疑問符が浮かんだけど、上げたわ。つい1時間ほど前に。
「噴水だけでよく分かったよね」
「花衣が行きそうなとこってここしかないでしょ」
「ていうか、来るなら連絡してくれたらよかったのに」
「しても返事しなさそうだったから」
「………あー、」
彼と出会って数ヶ月。2人でご飯行ったのは数回。近所の公園で話したのも数回。お互いなんとなく名前で呼び合える仲にはなったけど、全部を曝け出したつもりなんてない。
不意に出ることはあれ、友人ですら言葉にしないと気づかない機微を、研磨くんはいつも掬っていくから、ごくたまにどきりとしてしまう。
うん、私も思うよ。仮に連絡が来たとて即返信はしないだろうなって。
「え、研磨くん暇なの?」
「暇じゃない」
「話したいことあった、とか?」
「なら電話するでしょ」
「ですよねー」
ここへ来る途中にでも買ってきてくれたんだろうか。私の好きな飲料水のペットボトルの一つを、少しだけ雑に膝の上へ転がされる。
もう一つの同じ飲料水は彼の足の間。地べたに直接置いてから、吊り目の瞳が私を捕らえて数秒、瞬きさえ忘れたように動かなくなった。それからすぐ視線を外す。なに、今日は機嫌でも悪いのかな。