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【HQ】アイミスユーの後遺症【孤爪研磨】

第3章 苦渋と果汁のミックスジュース



「絶対忘れてねえと思うけど、一応確認な」
「なに」
「花衣っていただろ、高校んとき知り合った」
「…………」
「相変わらず分かりやすいねお前は」


僅かに反応したのは不可抗力だ。数日前の駅での出来事を、もしかしたらどこかで見ていたんじゃないかと思うほどの、タイミングの良さに一瞬思考が止まりそうになった。

なんでまた、今その名前を出すんだ。そう含みのある視線を投げると、ことの経緯をそれはそれはニヤニヤと口角を上げたまま、話すクロが憎らしかった。


最近知り合った子がけっこういい感じで、友達誘って飲もうってなったから、大学の友達適当に誘おうと思った。後日送られて来た写真を見て速攻予定変更。これはもうお前しかいないでしょ。だから誘いに来たんだと。

律儀に手土産まで持って、本格的に暑くなる前の温い風が入ってくる室内で、ふたりで温いスイカを食べながら、まるで攻略し損ねたゲームを再開するみたいな感覚が頭を掠めた。楽しそうに笑うクロに、実はもう再会したんだ。なんて言ったらどんな反応をするんだろう。


絶対見間違いだ、なんて切り捨てられなかった。あんな雑然とした場所で、視界に映っただけのわずか数秒に、何を期待したのか自分でもよく分からなかった。だけど気づいたら腕を掴んでた。


数年前の記憶が、美化されたまま保存したつもりはない。それでもロジックが上手く立ち上がらないと、こんな風になるんだなって自分でもびっくりした。


「見る?写真」
「いらない、そこまで言われたらもうわかるし」
「で?どうするよ」
「……クロむかつく」
「よーし、じゃ土曜迎えに来るからそのつもりで」


ごちそーさん。そう言って2人分の皿をシンクに持っていくクロの背中を見ながら思う。

いつだってタイミング一つで運命を左右する世界で生きてきたから、押すか引くかはもう息をするより簡単な行為だ。

それでも専門外のジャンルにおいては、ラスボス討伐より厄介で、緻密に組んだシミュレーションなど通用しない。その中に自ら飛び込むおれは、自分で思ってるよりめんどくさい性格をしているだろうなと。


空けっぱなしの窓の外に視線をやれば、遠くで雷鳴が鳴っていた。


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