第1章 君が残したメロウ・ブルー
「え、めっちゃ久しぶりだよね」
「そうだね。随分と雰囲気変わってたから、まさかと思ったけど」
「私も似てる人かなって思ってた」
こんな場所で、視界の端を通り過ぎていくのは見知らぬ人ばかりなのに。それももう何年も会ってない彼とばったり出会すなんて思ってもみなかった。
「えー、だれだれ?花衣の知り合い?」
「そうそう、高校の時のね」
「へぇ〜、はじめまして、花衣の友達です」
「………どーも」
最初から境界線をなんなく飛び越えてコミュニケーションを図ろうとするのは、彼女の最大の魅力だ。通用する相手かどうかなんて知ったこっちゃないとばかりに、どう言う知り合い?だの、もしかして元カレ?だの、私と研磨くんを交互に見ながらにこにこ笑ってるけど、忘れてた。
ここが通路の真ん中で、私たちが流れを止めてるってことを。
「じゃあ、そろそろ行くね」
あまりに人の視線が痛くて、彼女の根掘り葉掘りも躱したくて、彼にはぎこちない笑顔を向ける。
「花衣」
小さく手を振って、出口に向かおうとした私を止めたのは研磨くん。もう一度振り返ると、あの日最後に見た彼と今目の前にいる彼が重なって見えた。
「連絡先、変わってない?」
「……うん、変わってないよ」
「そっか。わかった。………じゃあね」
過去を思い出す手っ取り早い方法は音と匂いだと思う。だけど個人的には土地の記憶のほうが厄介だ。
なんで今まで忘れてたんだろう。
高校生の時、頻繁に使っていたこの駅も、ここから数十分先にあるあの公園も。私からすれば思い出を掘り起こすには十分な起爆剤なのに。
人混みに紛れた彼の背中は、もうどこにも見えなかった。