Wild Flower【ガチアクタ/ザンカ/現パロ】
第11章 Wild Flower
寒色だったはずの店内は、僅かに息の乱れた彼が扉を開けた瞬間から色が付いた。なんでおるん、たった一言だけそう漏らして、さっきまでエンジンさんが座っていた同じ椅子に腰をおろした。彼を誘った張本人は脱兎の勢いで背を向ける。
自分の気持ちに気づいたばかりのわたしにどうしろと。そんな視線を必死に投げてみたけど、気づいたのならどうにでもできるだろって言われてる気がしてやり場を失った。
こんな時でさえ軽やかに鳴る、スイングベルの音が店内に響いた後、際立つ静寂にたちまち居心地が悪くなる。どうやらそれは隣の彼も同じだったようで、口火を切ったのはザンカくんが先だった。
「エンジンと何話しとったん」
「普通に世間話?」
「こんな夜遅うにか?」
「こないだのタッパー取りに来たついでだよ」
「昼間でもええじゃろそんなん」
ごもっともだ。つい数時間前までわたしだってそう思ってた。それに重い腰を上げてここまで来て、自分の本音を引きずり出されただけならまだ耐えれる。
でもこの展開はどうしたってキャパオーバーだ。変に意識してしまうせいで、彼のいる右側が異様に熱い気がするし、そうかと思えば背中だけは冷たい汗が流れる感覚。なんだこれ。恋を覚えたばかりの中学生か。僅かに残っていた冷静な自分が頭の中で響いて、気づかれないよう小さく息を吐いた。
「女独りで出歩く時間ちゃうの、分かっとる?」
「近いし大丈夫かなって」
「遠い近いの問題とちゃうが。危ないもんは危ないんじゃ」
「……そう、だよね、うん」
「気ィつけて、ほんま」
「……ごめんなさい」
テーブルに置きっぱなしの携帯を触ると、深夜の1時が表示されて、ここへ来た時からゆうに2時間は経っていた。正論を吐く彼を視界に映して謝罪すれば、わたしの知っているいつものザンカくんはどこにもいなかった。
無造作に降りた髪、少しだけ眠たげに見える、鋭さを欠いた目元。おもいっきりオフの、家からそのまま飛び出してきたようなその姿が、余計に彼を身近な存在に感じさせる。
昼間の仕事モードなら、適当な愛想笑いでやり過ごせたかもしれないけど、その残酷なまでの境界線のなさに、ただでさえいっぱいいっぱいなわたしの心臓は破裂するんじゃないかと思った。こんな色気の漂う彼を、軽々しく見つめるんじゃなかった、とも。
