Wild Flower【ガチアクタ/ザンカ/現パロ】
第11章 Wild Flower
「コーヒー、冷めとるやろ。飲むんなら淹れ直すけど」
「さすがに2杯も飲んだら寝れなくなる」
「それもそうじゃの、ほんならはよ帰って寝え、送るから」
時間も時間だ。彼は明日も仕事で、今日ここへ来ることすら予定外だったはずだ。エンジンさんが何をどう吹き込んだのかは知らないけど、ザンカくんの生活を乱す行為にわたしも加担しているのは確かで。
席を立とうとする彼のその行動は至極当然なのに、わたしはと言えば椅子に根が張ったみたいに動けなかった。いや、正確には動きたくなかった。
エンジンさんに掬い上げられた気持ちも、過去に足掻いて怖気付く自分も、確かにそこにある。情熱的に突っ走って、なりふり構わず色恋に没頭することなどしたくないと、頭では理解してる。
それでもあの日、あの水族館でザンカくんがわたしにくれた言葉がずっと忘れられなかった。生きてきた中での経験全てを肯定してくれるような、優しくも力強い彼の声にどれほど救われたか。
わたしのことなんてすっぽりと包んでくれる、とてつもなく大きな想いに触れてしまえば、遅かれ早かれきっとわたしは彼に降参していたはずだ。
選択なんてしたくない、わたしは凪の中で今生を全うしたい。覆すのも困難な決意を彼はあっさりと覆してしまったのだから、もう無理だ。
「………どうしたん」
「話したいこと、あるんだけど」
咄嗟に彼の服の裾を掴んだのは無意識だ。何かを悟ったザンカくんがもう一度座ると、体ごとわたしの方へ向き直る。じっと見据える彼の瞳の強さに、逃げたくなるのをどうにか堪えて腹を据えた。