Wild Flower【ガチアクタ/ザンカ/現パロ】
第1章 匂い立つ春
「え、っと」
「あー、悪い悪い。お姉さん、派手なもん好きなのかと思って」
「派手なもの?」
「そー、髪色、めっちゃ派手」
「あー、」
数ヶ月前、金髪に近いミルクティーベージュに色を変えた髪。豪快に笑ってそれを見る彼の問いには悪いけど、好きでも嫌いでもどっちでもない、が正解だ。
だけど、いい年した女が血迷ってこんな色にしたわけでも、最近流行ってるからしたわけでもない。強いて言うなら、
「これは魔除け、ですね」
「魔除け?」
「はい」
「へぇ〜、なんかよくわかんねぇけど、いいねぇ」
ま、ゆっくりしてってちょうだいよ。音でも付きそうな軽やかな歩調で自分の持ち場に戻った彼の言葉は、世間の声とは真逆だった。
あからさまに、までは言わないけど明らかに引いてる職場の同僚とか、開いた口が塞がらない、の模範的解答をお披露目してくれた身内とか。
すれ違う人すれ違う人みんながわたしを変人扱いしてるんじゃないか、と言う自意識過剰にも似た自分への咎めの声とか。
それでもやりたかったんだからいいの。
今まで頭の中で無理やり一刀両断してきたからか、どんな意図があったにせよ、肯定されたことになんだかむず痒くなった。
「やば、……うま」
だよね、そうだよね、わたしの嗅覚間違ってなかったよね。美味いに決まってるよ、だって香りがもう、わたしの好みドンピシャだったんだもん。
答え合わせをするつもりで口をつければ、ほらやっぱり。
コクがあるのに苦味は控えめ。わたしの得意じゃない酸味は鼻腔の奥の方でほのかに残るだけ。
何の豆使ってるんだろう。ブレンドだから割合が神なのかな。
通ぶって考察してても所詮は浅知恵。コーヒーに詳しいわけでも舌が敏感でもない。
ただ、淹れる人で変わるのだけはわかった。
淹れた人が無愛想でも不機嫌に見えても、年季の入ったサイフォンを見つめる視線と向き合う姿に、何となく目が離せないでいたんだ。