Wild Flower【ガチアクタ/ザンカ/現パロ】
第1章 匂い立つ春
「………あれ?こんなとこに喫茶店なんてあったんだ」
初春、と言うにはあまりに厳しい風が舞う、太陽だけは夏に向かってやる気満々な午後。
見慣れたはずの帰路の細道の奥、見事な壁面緑化に埋もれるようにして、木目調の扉が佇んでいる。
その足元、控えめに主張する立て看板には『喫茶Dahlia』の文字が刻まれていた。
昼食後の、コーヒーを抜いた体は無意識にカフェインを欲しているのか、何の抵抗もなく扉を引く。
同時にアンティーク調のスイングベルがカランカランと音を立てた。
「いらっしゃい」
古き良き時代の名残りと、観葉植物の温もり。
ウッドパネルのレコードプレーヤーから流れる重低音と裏打ちのリズムは酷くミスマッチだ。
カウンターの奥、わたしに声をかけてくれた背の高い金髪男性を見て、音楽の好みが、らしいな、と思った。
店内の空気感、けっこう好き、かも。
「空いてるとこ、どこでもええよ」
「……ありがとう、ございます」
金髪男性の隣でカップを拭いていた男の人が、わたしに視線を送ると抑揚のない小さな声でそう言った。
初見でカウンターはさすがに敷居が高すぎるわ。
結果、入口から1番近い窓際のテーブル席に座る。
羽織っていたダウンは背もたれへ、画仙紙に書かれた手書きのメニュー表を見ていると、グラスをテーブルへと置く影が見えた。
「………」
「………」
接客業とは?そう自問しそうになる。
青のタッセルピアスを揺らして門番よろしくわたしを見下ろす彼の瞳は、威圧的ではないはずなのに、その場の空気を全て支配するような感覚になった。
「えーっと、ブレンドで」
いや、怖いから。なんでそんな不機嫌?無愛想?
僅かに動いたであろう口元からの音を拾えずに、カウンターの奥へ戻っていく背中を見る。
他のお客と楽しそうに会話している金髪男性はきっとコミュニケーションに長けているんだろう。そのせいか、悪い意味でタッセルピアスの彼が際立って見えてしまう。
ふぅ、息を短く吐いてスキニーのパッチポケットに突っ込んだままだったスマホを取り出してそれもテーブルへ。
ひと通り店内を見渡してから窓の外の景色を眺めて数分。はい、ブレンド、そう頭上からかけられた声は金髪男性のそれ。
お礼を言ってカップを持って、そうしてじっと見られてる違和感に気づいて変な位置で指が止まった。
