Wild Flower【ガチアクタ/ザンカ/現パロ】
第6章 最後の5秒が世界を変える
「花衣はいつも静かだな」
「存在消すの上手すぎやろ」
「でもお前、あれだけ忙しかったのに、チラチラ見てたぞ?自覚あんのかわかんねぇけど」
わざと距離を近づけて、俺だけにしか聞こえない音量で発する言葉は、窓際で本に夢中になっている彼女には届かないと分かっていても、変な汗が出そうになった。
この人はいっつもいっつも俺を揶揄ってどうしたいんじゃ。そら見るやろ、客やねんから。
彼女だけじゃない。他の客にも満遍なく気を遣ってるはずの俺からすれば、エンジンは単に反応を見て楽しんでいるだけ。
他が満席で、唯一空いていた窓際に誘導したのも、彼女の読んでいる本のタイトルが気になったのも、カップの底が見えていないかチラ見したのも、店員なら当然の配慮だと。
そう反撃したいのに、できなかった。
さっきからずっと気になってた。カウンターから直線上にいる彼女のことが。
視界の端には捉えても、真っ向から直視すれば何かが迫ってくる気さえして見れなかった。
だが、なんの悪戯か、ちょうど西日に目が眩みそうになって、出しっぱなしの水の音さえ気にする余裕もないままに、映した窓際。
まつ毛を伏せた彼女の横顔が、光で少しぼやけて、あまりに綺麗で、一瞬息をするのを忘れてしまう。
その姿が何故か儚げで、今掴んでしまわないと消えていくような漠然とした不安に、たまらず彼女の元へと駆け寄った。