第11章 ホメオティック遺伝子/シリアス
「……ちょっと待って」
繭は口先だけで、小さな声を出した。
凛の足は止まらないが、ほんの少しだけ速度が落ちるのは見てわかった。
「……なんだ」
凛は振り返らないままで、静かに声だけが返ってくる。
「…………いい。何でもない」
驚くほどに、繭自身の声も淡々として落ち着いていた。
別に無視をされる訳ではないし、何かが終わる訳でもない。
これで何かが切れる訳でもないし、過剰に癒着する訳でもない。ただこれだけだ。
前をゆく背中を見ながら、繭の中に一つ通ったものがあった。
これは、無理に相手に合わせる所ではない。
近づこうとしなくていいし、無理に離れようとしなくてもいい、単純にその時々の位置が違うだけだ。
これは理由が必要なものではないし、理屈云々で語られるものでもない。
もっと根本的な、本質的な何か。
そんな感覚になる。
「……遺伝子の配列みたいな」
繭からぽつりとだけ、そんな声が落ちた。
正しい表現かは分からないが、ニュアンスは近い気がした。
視線の先には、物理的実態としての存在はある。
話していないし、近くにもいない。
接近の意図も理由も目的も何もない。
それでいて、分断された感じもしない。
無意識の中に組み込まれた何かに、自分すら自然に操作されているのだとしたら。
それは奇妙なる未知の感覚だ。
Fin