第3章 喪失感/シリアス微糖
凛には繭に優しくしたつもりはないし、喪失感情に共感なんかしていないのはわかっている。ただ、合理的に判断して状況を的確に処理しただけだ。
凛は 愛嬌ある反応もそれ相応の見返りも求めていないとわかるから、今はそれをむしろ心地よく錯覚してしまうだけだ。今の自分はどうしようもなく人間らしく不安定であるのに、無機質なものに助けられるとは何だか皮肉にも感じる。
繭は視線だけで凛の顔を見上げた。
よく見えないのは、泣きすぎて目が腫れているせいだろう。
帰宅をすればいよいよ現実と向き合う必要がある。
そう思うだけでまた込み上げるものがある。
もっと出来ることもあったのではないか?
毎日真っ直ぐ家に帰り時間を共有すればよかったのでは?
小さい頃からの思い出をどう心にしまい直せばいいのか?
このまま時間が過ぎるのだとしたら耐えられるのかどうか?
ちゃんと幸せだった?最後は苦しくなかった?
ごめんね。ありがとう。さようなら。大好き。
様々な思惑が頭を占拠する。
しつこいくらいに、また視界がゆがむ。
「余計なこと考えんな」
また、引き戻される。
一度だけまばたきをすると落ちた涙の分だけ、視界が広くなる。
「事実確認だけして寝ろ」
逃げられないものから逃げるな、戦えないなら今は戦うな、勝てないなら勝てるように設計しなおせ。切り替えろ、時間を使え、誰も助けはしないのだから全て自分の責任でやれ。
どこまでも情緒を排除した現実的価値観が、強固に折れない羅針盤のようで刺々しくて不愉快だ。
方向だけしかくれないのに、方向だけしかくれないから、通るものがある。
考えることも感じることも、既に限界を超えている。
繭は何の反応もなく家に向かい歩き出す。それと同時に、自転車の走り出す音が聞こえた。
fin