第3章 喪失感/シリアス微糖
額が勝手に下がってくる。
下を向けば涙が落ちる感覚もますます深くなる。
滲む視界に入るのは勝手に進む地面のぶれた模様と、自身の手元を覆い隠す真っ黒い制服の上着だけだ。額の真ん中に凛の背中が触れるのがわかった。
「……っ……っ……」
今の繭には気遣いも配慮も出来る余裕はないので、結構な重みを乗せて頭を押しつけていたと思う。それでも何も言われないし拒絶も是正も入らないので、ますます深い所に情緒が落ちてゆく。
揺れる背中が完全に丸くなるくらい、繭の額はなし崩しに下に沈んでゆくばかりだ。
少しづつ、自転車の速度が緩んだ。
ここから先は下り坂にさしかかるからだ。
何がきっかけになり本格的に泣き始めたのかもわからない繭の体制は、あまりにも不安定であるし、坂の勾配が加わればバランスを失う可能性もある。凛は坂の手前で自転車を完全に止める。首を半分だけ後ろに回して言った。
「落ちるぞ」
繭は相変わらずだ。ぐずぐずしてはいても耳だけは反応しているようで、微かにのみ額をあげては同じように感情の渦の中にいる。
正直、繭のこのさまを至極面倒くさいと思う。ここで時間を使うのも、繭の安定を待つのも、そんな気はさらさらない。凛は苛立ちを含む溜息をつく。
「掴んどけ」
凛の意図することは伝わった。繭とて、もうどうにでもなれとは思ってない。
なるべく安全に的確に、帰宅することは必須なのもわかる。現実的に考えて乗り越えていかないといけないこともわかる。
言われるままに固まる腕を動かし、両手を自身の額の下あたりに置いた。
手は相変わらず袖に完全に覆われた状態であるし、力の入らない指先で何を掴んでいるのかもわからないまま、必死に触れるものを掴んでみる。
「ちゃんと掴め」
凛には背に起こる感触だけでも今の状況は伝わる。実際の状況はあまり変わっていない。完成図を描き、そこからの逆算で摘むべきポイントを潰すだけ、再度の指示は必須事項なだけだ。