第3章 喪失感/シリアス微糖
安定して、一定して、一切の会話はないまま自宅地区までの距離は縮まってゆく。
繭の心は不思議と今は少しだけ落ち着いている。
自転車の二人乗りなんて日頃する事はないし、楽な移動が叶い安全も保証されているならば普段の一コマとして自然に楽しめるタイミングで経験出来れば良かったとすら感じるくらいだ。
あたりは暗くなってきているし、ただ海風にさらされて四方八方からの風を受けていた時に比較すれば今は風の方向も定まっている。上着の温度がここではありがたかった。
どれだけ繭が悲しもうとも時間は止まらないし、現実も変わらない。淡々と必要なことを進めるだけの変化ない凛の背中が残酷にもそれを物語っている。それと同時に、どれだけ望もうとも事実はブレないことを提示しているようにも感じる。
張り詰めていたものが少しだけ、緩んだような気もした。
繭はゆっくり、海辺に顔を向けてみる。
見慣れた海がやたら寂しく見え、沈みゆく太陽の横には宵の明星がくっきり浮かんでいた。
「一番星……」
無意識に小さな声が出た。
太陽にも海のきらめきにも負けない強烈な白。
強い存在感を放つその色に、ふいに心を揺さぶられた。
「……っ」
急に、蓋をしておきたいものが止まらなくなるような。
スイッチが入る、とはこういうことだろうか。
「なんか……っ」
言葉にはしなかった。せっかく落ち着いてきて、いつもの自分に戻れそうにも感じていたのに目の前が一気に涙で埋まり頬を流れる感覚が強く続く。
喉の奥がたまらなく熱くなる。
「…………っ」
高校生にもなって嗚咽とともに泣くこと自体、まずない。
このような感覚自体が違和感でもあり久しくもある。どう表現したら良いのかがわからなくなった。
凛はこういう部分を重く受け止めない。からかったり慰めたりもしない。否定も肯定もしないし関心がない。ただのその場の情報として脳内で涼やかに処理され埋もれてゆくだけだ。だからむしろ、理性を外した所で無になれるのかもしれない。
高ぶった感情に乗せ誰も見てないのをいいことに、溢れるものが止まらなくなる。