第3章 喪失感/シリアス微糖
身体が更に圧縮された感覚はあるが、暖かさがあるのもまた事実だ。
重さだけの理由で繭には返す意思はないことは伝わっているようで、凛の目は依然として「早くしろ」との念を送り続けている。
繭は自転車に近づいた。またがるにしても全高が上すぎるし、どうしたものかともたついてしまう。足を持ち上げるには丈の長い上着はありがたかったが。
繭にすれば足がつかないしバランスも体重も、凛に一任するしかなかった。現状ではブレも揺れもないが、かといって安心出来るものでもない。
「ゆっくりね……」
「意味ねえだろ」
乗った事実を確認すると自転車は一定のスピードで走り出した。
寒さを感じる部分はほぼ顔だけになったのでその点だけは悪くなかったが。
こういうものは運転している本人に決定権があり当事者は怖くないが、命運を預けるしかない後ろの方は不安があるものだ。まして、繭は普段から自転車の二人乗りなぞ慣れてもいないのだから。
突如くる緩い段差の揺れに驚き、繭は前かがみになり凛のジャージを掴んだ。
肩にも足にも変な力が入ってしまう、体の力みをどこに逃がし均衡を取れば良いのかがわからなかった。
「引っ張んな」
「でも」
こちらを見ずとも物理的感覚で状況を察する凛は、冷静にバランスを維持し帰路を急ぐことだけを優先しているようだ。
「落ちない」
「……」
何か、見透かされたようにも感じた。
繭は顔を上げて、今日はじめて まともに凛を見上げた。
長めの髪を風に預ける後ろ姿からは顔は見えないが。少しだけ理性的に状況を理解出来た。真っ直ぐ進む自転車は確かに安定しているし、スピードと全高が高いことを除けば不安定な要素は確かになかった。
それもそのはずだ。凛はその辺の運動部員よりもかなりの鍛え方をしているし背だって高いし力も強い。むしろこの状況下においては普通の大人よりもうんと頼れるということだ。
繭は凛の服から静かに手を離し、自転車の金属フレームに手を預けた。