第3章 喪失感/シリアス微糖
「乗れ」
その声を受けて繭は顔を上げる。
繭から見るとかなりの高さがある凛の自転車を怪訝そうに見た。
「……ヤダ」
ただでさえ時間も過ぎているし、非効率甚だしい状態であるのに。
ようやくまともに口を開いたかと思えば拒否を呈してくるとはさすがにざわつくものがある。凛は瞳を細めて繭を軽く睨んだ。
「歩くの遅えんだよ」
「だって子供のころ、2人乗りして落ちた事あるし……」
「いつの話してんだ」
変な部分で思考も記憶もはっきりしている繭をわざわざ説得する気はなかった。理由がそれなら何も問題はない、命令も強制もしない、ここにあるのはただの決定事項だ。
自転車ならば歩くよりも速度が出る分、体感温度も低くなる。
血の気の引いた白い顔で、赤い目を伏せる繭はまだ納得した顔ではないが関係ない。凛はリュックを開け中からざっくり丸められた学ランの上着を取り出した。
「着ろ」
優先すべきは現状の維持、それが崩れているならば可能な限り素早い立て直しが必要事項となる。メンタルに合わせて体調まで崩れれば回復には更に時間を要するのは明白だ。
運動してきた身である凛自身ですら今の温度はやや肌寒いくらいだ。対処出来ることは講じておくに超したことはない。
目の前の学ランの上着を、繭は黙って受け取った。
言われてみれば寒い。指先に思うように力が入らないのは、心だけでなく身体も内側から冷えているせいもあるからだ。そういえばさっきからずっと何かを必死に支えるように身体の芯が冷たく固くなっている気がする。
たかが制服とはこんなにも重量があっただろうか。
女子が男子の上着を羽織るのだから、サイズが大きいのは当たり前だ。ただ、凛のものは規格を超えている。
丈はワンピースのようだし、手にいたっては全て隠れてしまい全く出てこない。心理面に続いて物理的にも自由を制限される気がする。
「……重」
「サイズ合わねぇからだろ」
「…………」
「寒くねえなら返せ」