第3章 喪失感/シリアス微糖
歩道に入れば凛はすぐに歩き出す。
繭はその後ろから狭い歩幅で帰路をなぞる。
繭の視線は地面と自身のつま先あたりだ。風に引っ張られる髪が泣きっぱなしの頬に張り付くのは不快だった。潮風にさらされ続けた髪もじとりとしていて気持ちが悪い。そういえば通学バッグの中にヘアゴムくらいは入っていたはずだ。しかし落ちた自分の状況を少しでも快に持ってゆくだけの判断も行動も、面倒くさく感じられた。
少しだけ頭を上げれば凛との間には、あっという間に距離が出来ている。
夕日が眩しくよくは見えないが海辺には遊ぶ学生、向かいの歩道には犬の散歩をする人とジョギングをする人。凛を含めて周りだけはいたって普段通りだ。
自分だけがそこに沈んでその他のものは規則的に前に進むようで、その空間が気味悪いほど静かにも感じてしまう。
思考も感覚も止まっているから、今できることは機械的に足を動かすことくらいだ。
繭は再び自身の足元に視線を落として、緩やかに前に進んだ。
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気配が遠のき振り返れば、繭とは顔も声もよくわからないくらいの差が出来ていた。
歩幅で言えば自身の方が大きい自覚はある。日頃の繭とて速いとは言いがたいが、かといって不快になるほど遅い訳ではない。
正直、足元だけを見て力なく歩く繭には強い呆れを覚える。
いくら対象が愛猫だからといってももう少し、現実的に物事を見る人間だとの先入観があったからだろう。
強い海風が通り過ぎる。乱れる髪で顔もわからない繭は、相変わらず力なく歩くだけだ。凛は一度だけ、水平線に目を向ける。もう日没も遅くない。
だらりと歩く繭がようやく後ろに追いついてきた。
凛は自転車にまたがると背負っていたリュックを前側にかけ直す。