第3章 喪失感/シリアス微糖
早い話が繭はここで現実逃避をしているという訳だ。
猫が大切なら一刻も早く帰宅して自分で事実確認をし、必要な対処に移れば良いものをそれを目の当たりにするだけの覚悟がないということなのだろう。ペットの喪失、別れの悲しみ、命の儚さ、凛には少しも共感は出来ないしする気もない。ただ事実として、今の状況がどうあるのかの判断はつくだけだ。この場での時間稼ぎは繭の中では合理的判断なのだろう。
凛は多くを話すこともないし、今の繭は凛以上に何かを話せる状況にもない。
思考も感情も動かすことのないまま、ただ海の色と音に感覚を委ねて、かれこれ10分は過ぎただろうか。
繭は急に静かになったり、またほんのりすすり泣いたり、顔を少しだけ上げ潮風に目を細めたりと実に無意味な停滞の最中にいるだけだった。
凛は外側から状況を観察し、現在位置を確認する質問を投げた。
「まだ泣いてんのか」
「…………」
「もういないのは変わらねえだろ」
「…………」
繭からの返答はない。事実の提示、思考の切り替え、今の繭にはほぼ入らないのは何となく予想もつくが、繭には全く聞く気はないのか、また同じように一人塞ぎ込んで丸まってしまう。
気づけば太陽も落ちてきた。気温だって下がってくる。
ここで感情任せに留まっていた所で何がどうなるものではないし、状況が好転するとも考えにくい。凛は自身の自転車に向かいながら繭に言った。
「帰るぞ」
物事の流れを変えるのに環境を変えることは立派な戦略だ。凛は既に自転車のハンドルを握り、繭に行動を支持する視点を固めている。
繭は何とか立ち上がる。時間をなくしたように全ての動作が重くて遅くなる。
力の入らない身体には、全身に触れる風の強さが厳しくよろけそうにもなる。
帰りたいかと言われるとそうではない。ただもう、自分で考えることすらも投げ出したい気分とも言えるかもしれない。意思の深さの乗る凛に声に形だけで答え、自身の通学バッグを抱えて一歩一歩で歩道に移動する。
波の音に混ざって、通り過ぎる車の音が強くなる。